クラウドサービスやSaaSの利用が広がり、社外から業務システムへアクセスする機会が増えたことで、企業の認証環境は以前より複雑になっています。

IDとパスワードだけでログインできる状態では、パスワードの漏洩、使い回し、フィッシングなどによって、不正アクセスにつながるリスクがあります。

こうした背景から、多くの企業で導入が進んでいるのが多要素認証(MFA)です。

多要素認証は、パスワードだけに頼らず、複数の認証要素を組み合わせて本人確認を行う考え方です。

一方で、実際に認証強化を検討すると、

  • 多要素認証と二要素認証は何が違うのか
  • 二段階認証とは同じ意味なのか
  • パスワードレス認証とはどう違うのか
  • FIDO2やパスキーとはどのような関係があるのか

といった疑問が出てきます。

本記事では、多要素認証(MFA)の基本を整理しながら、二要素認証・二段階認証・パスワードレス認証・FIDO2との違いを分かりやすく解説します。

あわせて、企業がMFAを導入する際に確認しておきたいポイントも紹介します。

なお、FIDO2やパスワードレス認証の具体的な設計・運用については、
FIDO2&多要素認証(MFA)実装ガイドや、
パスワードレス認証の導入判断と設計
でも詳しく解説しています。

 

多要素認証(MFA)とは?

多要素認証(MFA)とは、複数の異なる認証要素を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。
MFAは「Multi-Factor Authentication」の略で、日本語では「多要素認証」と呼ばれます。

従来のID・パスワード認証では、パスワードを知っていればログインできてしまいます。
そのため、パスワードが漏洩したり、フィッシングサイトに入力してしまったりすると、第三者に不正ログインされるリスクがあります

 

多要素認証では、パスワードに加えて、スマートフォン、認証アプリ、USBトークン、生体認証など、別の要素を組み合わせます。
これにより、仮にパスワードが漏洩しても、それだけではログインしにくい状態を作ることができます。

たとえば、パスワードを入力した後にスマートフォンへ通知を送り、本人が承認した場合のみログインを許可する方式があります。
また、指紋認証や顔認証、セキュリティキーなどを使って本人確認を行う方式もあります。

多要素認証は、単にログイン手順を増やすための仕組みではありません。
重要なのは、1つの認証情報が破られても、別の要素で不正アクセスを防ぎやすくすることです。

 

多要素認証が必要とされる背景

企業で多要素認証が必要とされる背景には、認証を狙った攻撃の増加があります。
特に、パスワードの使い回しやフィッシングによる認証情報の窃取は、現在も多くの企業にとって大きなリスクです。

パスワードは、ユーザーが覚えやすいものにしてしまったり、複数サービスで使い回したりしやすい性質があります。
そのため、1つのサービスから認証情報が漏洩すると、別のサービスでも不正ログインに使われるおそれがあります。

また、リモートワークやSaaS利用の拡大により、社内ネットワークの内側だけを守ればよい時代ではなくなりました。
社外からのアクセス、個人端末の利用、クラウドサービスとの連携など、認証が必要になる場面は増えています。

 

このような環境では、IDとパスワードだけで本人確認を行うのは十分とはいえません。
MFAを導入することで、ログイン時に複数の要素を確認し、不正アクセスのリスクを下げやすくなります。

ただし、MFAを導入すればすべてのリスクがなくなるわけではありません。
方式によっては、ユーザーに認証通知を何度も送り、誤って承認させる「MFA疲労攻撃」のような手口も問題になります。

MFA疲労攻撃については、MFA(多要素認証)疲労攻撃とは?:攻撃方法と6つの防御方法でも詳しく解説しています。

 

多要素認証で使われる3つの要素

多要素認証では、主に次の3つの要素を組み合わせて本人確認を行います。

1. 知識情報

知識情報とは、本人だけが知っている情報です。
代表例は、パスワード、PIN、秘密の質問などです。

もっとも一般的な認証要素ですが、漏洩、推測、使い回し、フィッシングのリスクがあります。
そのため、知識情報だけに依存する認証は、企業利用ではリスクが高くなりやすいといえます。

 

2. 所持情報

所持情報とは、本人が持っているものを使う認証要素です。
スマートフォン、認証アプリ、USBトークン、セキュリティキー、会社支給PCなどが該当します。

たとえば、ログイン時にスマートフォンへ通知を送る方式や、USB型の認証器を接続して本人確認を行う方式があります。
所持情報を使うことで、パスワードを知っているだけではログインできない状態を作りやすくなります。

 

3. 生体情報

生体情報とは、本人の身体的特徴を使う認証要素です。
指紋認証、顔認証、虹彩認証などが代表例です。

ユーザーにとっては操作しやすく、入力負担を減らしやすい点が特長です。
ただし、企業で利用する場合は、対応端末、登録・削除のルール、共有端末での扱いなどを事前に整理する必要があります。

多要素認証では、これらのうち異なる種類の要素を組み合わせることが重要です。

たとえば、パスワードとPINのように、どちらも知識情報に分類されるものを組み合わせても、一般的な意味での多要素認証とはいえません。

 

二要素認証・二段階認証・MFAの違い

多要素認証とあわせて、「二要素認証」「二段階認証」という言葉もよく使われます。
似た言葉ですが、厳密には意味が異なります。

二要素認証は、異なる2種類の認証要素を組み合わせる認証方式です。
たとえば、パスワードという知識情報に加えて、スマートフォンという所持情報を使う場合は、二要素認証に該当します。

一方、二段階認証は、ログイン手順が2段階になっている認証方式を指すことが多い言葉です。
ただし、2段階であっても、使っている要素が同じ種類であれば、多要素認証とはいえない場合があります。

 

たとえば、1段階目でパスワードを入力し、2段階目で別の暗証番号を入力する方式は、どちらも知識情報に依存しています。
この場合、手順は2段階ですが、異なる要素を使っているわけではありません。

つまり、整理すると次のようになります。

  • 多要素認証(MFA):複数の異なる認証要素を組み合わせる考え方
  • 二要素認証:MFAのうち、2種類の要素を使う方式
  • 二段階認証:ログイン手順が2段階になっている方式

企業の認証強化では、単にログイン手順を増やすのではなく、異なる種類の認証要素を組み合わせているかを確認することが重要です。

 

MFAとパスワードレス認証の違い

MFAとパスワードレス認証は、どちらも認証強化の文脈で使われる言葉ですが、意味は同じではありません。

MFAは、複数の認証要素を組み合わせる考え方です。
そのため、パスワードを1つの要素として残したまま、スマートフォン通知や認証アプリ、セキュリティキーなどを追加する構成もMFAに含まれます。

一方、パスワードレス認証は、パスワードを使わない、またはパスワードに頼らない認証方式の総称です。
パスワードを入力せずに、端末認証、生体認証、証明書、FIDO2、パスキーなどを使って本人確認を行う考え方です。

つまり、MFAは「複数の要素を組み合わせるか」に注目した言葉であり、パスワードレス認証は「パスワードに依存しないか」に注目した言葉です。

 

この違いを理解しておかないと、導入時に誤解が生じやすくなります。
たとえば、MFAを導入していても、パスワードを使い続ける構成であれば、パスワードレス認証とはいえません。

逆に、パスワードレス認証であっても、方式によっては追加の本人確認や端末管理が必要になる場合があります。

パスワードレス認証の考え方や導入判断については、パスワードレス認証の導入判断と設計でも詳しく解説しています。

 

MFAとFIDO2・パスキーの関係

FIDO2やパスキーは、MFAやパスワードレス認証と近い文脈で語られることが多い認証方式です。

FIDO2は、公開鍵暗号方式を使った認証を実現するための技術標準です。
従来のように、パスワードを入力して本人確認を行うのではなく、端末側に保持された秘密鍵と、サービス側の公開鍵を使って認証を行います。

パスキーは、FIDO標準に基づく認証情報として利用されます。
ユーザーは、指紋認証、顔認証、PINなど、端末のロック解除に近い操作でサインインできます。

FIDO Allianceでは、パスキーをパスワードに代わる認証情報として説明し、フィッシング耐性を高めやすい方式として紹介しています。

参考:FIDO Alliance「Passkeys」

 

MFAとの関係で見ると、FIDO2やパスキーは、単に「認証要素を追加する」だけではありません。
パスワードに依存しない認証や、フィッシング耐性の高い認証を実現しやすい点が特長です。

そのため、MFAの運用に課題を感じている企業では、FIDO2やパスキーを活用した認証強化が選択肢になります。
特に、フィッシング対策を重視する場合や、パスワード入力そのものを減らしたい場合には、従来型のMFAだけでなく、FIDO2やパスキーも含めて検討するとよいでしょう。

FIDO2の役割や導入時の考え方、パスキーの仕組み、FIDO2との違いについては、下記の記事で解説しています。

 

MFAだけでは不十分なケース

MFAは認証強化に有効な手段ですが、MFAを導入しただけで十分とは限りません
方式や運用によっては、攻撃者に悪用される余地が残ることがあります。

たとえば、SMSで送られるワンタイムパスワードは、ユーザーにとって分かりやすい一方で、フィッシングや端末乗っ取り、SIM関連のリスクを考慮する必要があります。

また、プッシュ通知型のMFAでは、攻撃者が何度も承認通知を送り、ユーザーが誤って承認してしまうリスクがあります。
このような攻撃は、MFA疲労攻撃として知られています。

 

MFA疲労攻撃では、利用者が通知に慣れてしまい、内容を十分に確認せず承認してしまうことが狙われます。

そのため、企業でMFAを導入する際は、単に「MFAを入れたか」ではなく、どの方式を使うのか、どの業務に適用するのか、例外時にどう対応するのかまで設計することが重要です。

特に、重要なシステムやリモートアクセス、管理者アカウントなどには、フィッシング耐性の高い認証方式を検討する価値があります。
認証に求める保証レベルやリスクに応じて、適切な認証方式を選ぶことが重要です。

MFA疲労攻撃の具体的な手口や防御方法については、MFA(多要素認証)疲労攻撃とは?:攻撃方法と6つの防御方法をご覧ください。

参考:
NIST SP 800-63B

 

企業でMFAを導入する際に確認したいこと

企業でMFAを導入する際は、技術的に導入できるかだけでなく、運用に無理がないかを確認する必要があります。

 

1. 対象システムの優先順位

まず、どのシステムからMFAを適用するかを決める必要があります。
すべてのシステムに一度に導入しようとすると、利用者の混乱や問い合わせが増える場合があります。

優先度が高いのは、管理者アカウント、リモートアクセス、メール、SaaS、顧客情報や機密情報にアクセスできるシステムです。
リスクが高い領域から段階的に導入することで、現場への負担を抑えながら認証強化を進めやすくなります。

 

2. 例外ユーザーと復旧フロー

MFA導入時に見落とされやすいのが、例外ユーザーと復旧フローです。
スマートフォンを持てないユーザー、共有端末を利用する現場、端末を紛失した場合、機種変更した場合など、標準ルールだけでは対応しきれないケースがあります。

こうした例外対応を事前に決めておかないと、導入後に情シスやセキュリティ担当者への問い合わせが増えやすくなります。
MFAはセキュリティを高めるための仕組みですが、運用が複雑になりすぎると、かえって現場に定着しにくくなります。

 

3. IdP・SSOとの連携

企業では、複数のSaaSや社内システムを利用することが一般的です。
そのため、MFAを個別サービスごとに設定するだけでは、管理が複雑になりやすくなります。

IdPやSSOと連携し、認証ポリシーを一元的に管理できるようにすると、利用者の負担と管理者の運用負荷を抑えやすくなります。

SSOの基本については、シングルサインオン(SSO)とは?仕組みやメリットをご紹介でも解説しています。

また、FIDO2やMFA全体の方式選定、IdP・SSOとの連携設計、運用の落とし穴については、FIDO2&多要素認証(MFA)実装ガイドも参考になります。

 

4. 端末認証との組み合わせ

MFAは、ユーザー本人を確認するための仕組みです。
ただし、企業の実務では「誰がアクセスしているか」だけでなく、「どの端末からアクセスしているか」も重要になります。

たとえば、会社が管理していない端末から機密情報へアクセスできる状態では、ユーザー認証が強くてもリスクが残る場合があります。

MFAを導入する際は、端末管理、デバイス証明書、暗号化、ポリシー管理なども含めて考えると、より現実的なセキュリティ設計になります。

PC起動時認証からWindowsログイン、SaaS利用時の認証まで含めて検討する場合は、認証方式だけでなく、端末側の管理や暗号化もあわせて設計することが重要です。

 

ゼロトラストにおけるMFAの役割

ゼロトラストでは、「社内だから安全」「VPNに入っているから安全」といった前提に頼らず、アクセスのたびに利用者や端末の状態を確認する考え方が重視されます。

この中でMFAは、認証強化の基本的な手段のひとつです。
IDとパスワードだけではなく、複数の要素で本人確認を行うことで、認証の入口を強化できます。

 

ただし、ゼロトラストを実現するには、MFAだけで十分というわけではありません。
認証方式、端末の状態、アクセス先、利用場所、リスクレベルなどを総合的に見て、アクセスを許可するか判断する必要があります。

そのため、MFAはゼロトラストの一部として位置づけることが重要です。
パスワードレス認証やFIDO2、パスキー、端末管理、SSOなどと組み合わせることで、より現実的な認証基盤を設計しやすくなります。

ゼロトラストを認証・ID起点で整理したい場合は、ゼロトラストとは?認証・ID起点で進める企業実践ガイドをご覧ください。

 

WinMagicが支援できること

企業でMFAを導入する場合、単に認証要素を増やすだけでは不十分です。
ユーザーの利便性、端末管理、SaaS利用、SSO、例外対応、復旧フローまで含めて、業務に定着する形で設計する必要があります。

WinMagicでは、こうした企業向けの認証運用を支援するソリューションとして、MagicEndpointを提供しています。

MagicEndpointは、企業内でパスワードレス認証を利用できるようにするソリューションであり、スマートフォン、USBトークン、ノートPCなどのデバイスを認証要素として扱う構成にも対応しています。

また、PC起動時認証やWindowsログイン、SaaS利用時の認証まで含めて設計したい場合は、個別の認証方式だけでなく、認証基盤全体を見据えた検討が重要です。

MFA、パスワードレス認証、FIDO2、パスキーをどのように組み合わせるべきかを整理することで、セキュリティと利便性の両立を目指しやすくなります。

関連リンク

 

まとめ

多要素認証(MFA)とは、複数の異なる認証要素を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。
パスワードだけに依存しない状態を作ることで、不正アクセスのリスクを下げやすくなります。

一方で、MFA、二要素認証、二段階認証、パスワードレス認証、FIDO2、パスキーは、それぞれ意味が異なります。

MFAは複数の要素を組み合わせる考え方であり、パスワードレス認証はパスワードに依存しない認証方式の総称です。
FIDO2やパスキーは、パスワードレス認証やフィッシング耐性の高い認証を実現するうえで重要な選択肢になります。

企業でMFAを導入する際は、方式の選定だけでなく、対象システム、例外ユーザー、復旧フロー、IdP・SSO連携、端末認証との組み合わせまで含めて検討することが重要です。

多要素認証やパスワードレス認証を含む認証強化を、企業としてどのように進めるべきかを詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。

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