パスワード運用には、漏えい、使い回し、フィッシングといったリスクに加え、パスワードリセット対応などの運用負荷もあります。
特に、リモートワークやSaaS利用の拡大により、企業の認証は以前よりも幅広い場面で見直しが求められるようになりました。

こうした背景の中で注目されているのが「パスキー」です。
パスキーは、パスワードの代わりに利用できる認証情報であり、指紋認証、顔認証、PINなどを使って、より安全かつスムーズなログインを実現しやすい仕組みです。

一方で、企業で活用する場合は、「便利そうだから導入する」だけでは不十分です。

「例外ユーザー対応をどうするか」
「端末変更時の復旧をどう設計するか」
「SSOや既存認証基盤とどう連携するか」

といった、運用を見据えた設計が欠かせません。

本記事では、パスキーとは何か、どのような仕組みで動くのか、なぜ安全と言われるのかを分かりやすく整理します。
あわせて、パスワードレス認証やFIDO2との関係、企業導入時に押さえておきたいポイントも解説します。

なお、企業でパスキーを含む認証強化を検討する際は、認証方式だけでなく、端末認証やSaaS連携まで含めた全体設計が重要です。WinMagicでも、実務観点から関連情報を発信しています。

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パスキーとは?

パスキーとは、パスワードの代わりに使える認証情報です。
従来のように、サービスごとにパスワードを作成して覚え、入力するのではなく、ユーザーの端末に保存された認証情報を使って本人確認を行います。

パスワード認証では、どうしても次のような問題が起こりやすくなります。

  • 同じパスワードの使い回し
  • 推測されやすいパスワード設定
  • フィッシングサイトへの入力
  • パスワード忘れによるリセット対応の増加

パスキーは、この「覚える秘密情報」に依存しない認証へ移行するための有力な方式です。
利用者は、端末上で本人確認を行い、その結果を使ってサービスへログインします。そのため、複雑なパスワード管理から解放されやすく、入力負担も減らしやすくなります。

参考:FIDO Alliance「パスキー」Google for Developers「Passkeys」

 

パスキーの仕組み

パスキーの仕組みの中心にあるのは、公開鍵暗号方式です。

登録時には、ユーザーの端末上で「公開鍵」と「秘密鍵」のペアが生成されます。サービス側には公開鍵が保存され、秘密鍵はユーザーの端末側に保持されます。

認証時には、サービス側が出すチャレンジに対して、端末側が秘密鍵で署名し、その署名を公開鍵で検証することで本人確認を行います。
ここで重要なのは、秘密鍵そのものがサーバーへ送られないことです。

従来のパスワード認証では、入力されたパスワードに依存して認証を行いますが、パスキーでは、端末内に保持された秘密鍵を使って認証を成立させます。この違いが、セキュリティ面で大きな意味を持ちます。

また、指紋認証や顔認証は、一般に「その端末を今操作している人が本人か」を確認するために使われます。
生体情報そのものをサービス側へ送るのではなく、端末側で本人確認を行い、その結果をもとに認証処理を進める形です。

さらに、パスキーには、ユーザーの複数デバイス間で安全に同期されるものと、特定デバイスに紐づいて利用されるものがあります。

企業導入では、この違いも運用設計に関わります。たとえば、端末変更時の引き継ぎや、会社支給端末での管理方法などは、事前に考えておく必要があります。

参考:W3C「Web Authentication: WebAuthn Level 3」

 

なぜパスキーは安全と言われるのか

パスキーが安全と言われる理由のひとつは、盗まれて再利用される文字列のパスワードを前提にしていないことです。

パスワード認証では、利用者が入力した情報を攻撃者が盗み取り、別の場所で再利用するといった被害が起こり得ます。
一方、パスキーはそのような文字列の秘密情報に依存しないため、従来のパスワード運用で起きやすかった問題を減らしやすくなります。

もうひとつの理由は、正しいサービスに対してのみ認証が成立する仕組みです。

パスキー認証では、認証器の鍵が利用先のRP IDに紐づいて扱われるため、見た目だけを真似した偽サイトでは認証が成立しにくい仕組みになっています。
この点は、フィッシング対策の観点でも重要です。

パスワード方式では、利用者が誤って偽サイトに情報を入力してしまうリスクがありますが、パスキーではそのような攻撃が成立しにくくなります。

ただし、パスキーを導入すればすべて解決するわけではありません。
端末紛失時の対応、アカウント復旧フロー、例外ユーザーの扱い、SSOやIdPとの接続設計が不十分だと、全体としては運用リスクが残ります。

 

パスキーとパスワードレス認証の違い

パスワードレス認証は、パスワードを使わない、またはパスワードに頼らない認証方式全体を指す広い概念です。
つまり、パスキーはパスワードレス認証の代表的な方式のひとつですが、パスワードレス認証そのものと完全に同じ意味ではありません。

実際、パスワードレス認証には、FIDO/WebAuthnベースの認証だけでなく、生体認証、デバイス認証、マジックリンクなど、複数の考え方があります。

そのため、「パスワードレスを進めたい」と考えたときに、すぐにパスキーだけを答えにするのではなく、どのシステムに、どのユーザーに、どの運用条件で導入するのかを見る必要があります。
この観点は、企業で認証基盤を設計する際に特に重要です。

詳しくは、パスワードレス認証の導入判断と設計や、多要素認証ソリューション紹介ページも参考になります。

 

パスキーとFIDO2の関係

パスキーとFIDO2は、同じ文脈で語られることが多いものの、厳密には同じ言葉ではありません。

実務的には、FIDO2は仕組みや標準の話、パスキーはその仕組みを使った利用形態や認証情報の話と捉えると分かりやすくなります。

つまり、FIDO2はWebAuthnなどを含む背景の技術標準であり、パスキーはその標準に基づいて利用される認証情報・利用体験として捉えると整理しやすくなります。

この違いは、企業が製品や構成を比較する際にも重要です。
「パスキー対応」と書かれていても、対応ブラウザ、対応デバイス、同期方式、SSOやIdPとの組み合わせ方は、製品や環境によって異なります。

導入を検討する際は、名称だけで判断するのではなく、どの標準に基づき、どこまで企業運用に落とし込めるのかを確認することが重要です。

 

パスキー導入のメリット

パスキー導入の大きなメリットは、ログイン負担を減らしやすいことです。
従来のように長いパスワードを覚えたり、都度入力したりする必要が減るため、利用者にとって操作が分かりやすくなりやすい特徴があります。

企業側にとっては、パスワード忘れやリセット対応を減らしやすい点も大きな利点です。
ログイン関連の問い合わせが減れば、管理者の運用負荷軽減にもつながります。

また、フィッシング耐性の高い認証を進めたい企業にとって、パスキーは有力な選択肢です。
パスワード依存を減らしつつ、ログイン体験の改善とセキュリティ強化を両立しやすい点は、大きな魅力といえます。

特に、SaaSの利用が多い環境や、複数の認証方式が混在している環境では、認証体験の見直しが業務効率にも影響します。
そのため、パスキーは単なる新しい認証方式としてではなく、業務全体のログイン体験を整える選択肢として捉えることが重要です。

 

パスキー導入時の注意点

 

1. 端末紛失・故障・機種変更時の復旧フロー

パスキーは便利ですが、端末を紛失した場合や故障した場合、どのように再登録するのかを事前に決めておかないと、問い合わせや運用混乱が増えます。
会社支給端末なのか、私物端末なのかによっても、考えるべき運用は変わります。

 

2. 共有端末・例外ユーザーへの対応

生体認証を使いにくいユーザー、私物端末利用が前提のユーザー、現場端末や共用端末など、一律に同じ設計を適用しにくいケースがあります。
そのため、標準パターンだけでなく、例外ユーザー向けの代替手段もあわせて設計する必要があります。

 

3. SSOやIdPを含めた全体設計

企業利用では、単独のログイン画面だけで完結しないケースがほとんどです。
Windowsログイン、SaaS、SSO、IdP、MFAポリシーとの整合が必要になります。

シングルサインオン(SSO)とは?仕組みやメリットをご紹介や、FIDO2&多要素認証(MFA)実装ガイドもあわせて確認すると、より全体像をつかみやすくなります。

参考:Microsoft サポート「パスキーを使用したサインイン」

 

企業でパスキーを活用するなら、認証方式だけでなく運用全体で考える

企業でパスキーを活用する場合、単に「ログイン方法を新しくする」だけでは不十分です。
端末認証、Windowsログイン、SaaS利用、SSO、例外ユーザー対応、復旧フローまで含めて、一貫した認証体験として設計する必要があります。

WinMagicでは、こうした企業向けの認証運用を支援するソリューションとして、MagicEndpointを提供しています。

MagicEndpointは、企業内でパスワードレス認証を利用できるようにするソリューションであり、スマートフォン、USBトークン、ノートPCなど複数のデバイスを認証要素として扱う構成にも対応しています。さらに、WinMagicでは、暗号化ソリューションであるSecureDocと組み合わせた認証設計も案内しています。

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まとめ

パスキーとは、パスワードの代わりに使える認証情報であり、公開鍵暗号方式を使って本人確認を行う仕組みです。
文字列のパスワードに依存しないため、従来のパスワード認証で起きやすかったフィッシングや使い回しのリスクを下げやすい方式として注目されています。

一方で、企業導入では、例外対応、復旧手順、IdP/SSO連携、端末運用まで含めて設計することが重要です。
パスキー単体の利便性だけを見るのではなく、実際の業務環境へどう落とし込むかまで含めて考える必要があります。

パスキーやFIDO2を含む認証強化を、企業としてどのように進めるべきかを詳しく知りたい方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

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